舞々花伝

黒翁襲来(1)

 翌日の空は、抜けるように青く、その中で輪郭のはっきりした太陽が燦々と照っていた。辺りの山や森から、油蝉が集団で鳴く声が耳鳴りのように聞こえてくる。
 ――猿彦が、変わった。
 極力他人のためになど動かなかった彼が、自分から手伝うようになったのだ。
「な、なんでたづちゃんじゃないんじゃー!」
 口々に不満をあげる除霊志願者に、猿彦はてきぱきとヤスケを振り下ろしていく。その中には以前、問答無用でヤスケを振り下ろされたお爺ちゃんの姿もあった。
〔うっせー。アイツは今、重病人の相手してんだよ〕
 夏のこの暑い日に雹でも降ってくるんじゃないかと僕は気が気じゃない。そんなことになったら大惨事だ。……などと思いつつ、猿彦の変化をほくほく顔で眺めてしまう。
「どうしたの、突然。自分から手伝うなんて」
 やりとりの合間に、僕が問えば、
〔あ? てめぇらがうるせーからだろ〕
 苛立たしげな猿彦の、そんな答えが返ってくる。
 僕がどれほど言っても動かなかったくせに。彼は、「てめぇら」の「ら」に理由があるのを決して認めない。そんな所が微笑ましくて、思わず僕はにやけてしまう。年の離れた弟の初恋を応援したいお兄さんの気持ちはこんな感じだろう。
「わしらは待つぞ! 何のためにここまで来たと思っとるんじゃ!!」
「そーだ、そーだ!!」
 汗と唾を飛ばして、男たちが吠える。
〔だまれ。本体ごと昇天させんぞ〕
 夏の暑さも相まってか、猿彦のヤスケを握る腕とこめかみに青筋がたった。
 地鳴りのような怒気が彼の背後で揺らめくと、男たちは途端に静かになったが、
〔……ふん。あのトリオンナん所に行きたきゃ、俺を倒して行くんだな〕
 猿彦が指をくいくいと動かし、挑発するれば、彼らは唸り声を上げ、次々と猿彦に飛びかかっていく。……たづさんに蹴られるために。