舞々花伝

猿と杓文字と、その怨霊(2)

 僕の相棒・猿彦は、賤民芸と軽侮された申楽能と呼ばれる舞台芸能を、足利義満将軍に認めさせた観世三郎清次……観阿弥の孫で、後生、能楽の大成者としてその名を残す、観世三郎元清の次男坊だ。
 そんな将軍お墨付きの芸能者、煌びやかな彼らには裏の顔がある。
 先ほども言った通り、それは陰陽師や僧侶と並ぶ祓魔師としての顔。
 死霊をその身に宿し、その力を使って魔を退ける特殊な力を使う彼らは、〈舞々〉と呼ばれていた。
 そして……申し遅れました。
 僕の名前は(たいらの)敦盛(あつもり)
 気弱そうな女顔に、上背もなくひょろっとした体格は、よくお公家さんと間違えられるけど、これでも歴としたあの平清盛――二百年前、権勢を恣にした大入道の甥っ子。
 つまり紛うことなき武士だ。
 え? そんなに長生きする人間がいるはずがないって?
 もちろんその通り。僕は二三二年前の寿永三年、一ノ谷の合戦で源義経に敗れて死んだ。
 享年十七歳。
 今は身体がないから、猿彦に身体を借りたりして、舞々の仕事を手伝ってる。


 すでにお察しの通り、僕は猿彦の〈持ち霊〉。
 ……すなわち、怨霊だ。

( 一ノ段 了 )